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偏愛の犠牲者、ディナ
(創世記34章)

                                             石川和夫牧師
  

 

 創世記三四章は、創世記の中でも最も陰惨で、残虐極まる物語です。しかもヤコブの息子たちによるものですから、やりきれない思いが致します。
 この悲劇の舞台はシケムです。しけむは、エルサレムの北約六五キロ、ゲリジム山のふもとにあった町で、カナン全体のほぼ中心部にありました。ヤコブの祖父アブラハムが、かつてここのモレの樫の木のもとで祭壇を築いて主を礼拝した場所でした(創世記12・6、7)。
 ヤコブは母リベカの偏愛で育ったせいか、狡猾で自己保身しか考えない人間となっていたようです。前回見たように、人を騙す人は、人に騙されます。叔父のラバンに騙された結果、レアとラケルの姉妹と結婚することになり、さらに、それぞれの召使いとも交わって、結果的には、十二人の息子が与えられます。
 今回の事件の主犯は、息子のシメオンとレビですが、彼らの母は、ヤコブからあまり愛されなかったレアでした。問題のディナの母もレアでした。父にうとまれる母を見て育った彼らが、父親を無視して結束するのも自然だったかもしれません。
 ディナがシケムの首長であるヒビ人ハモルの息子シケムに愛されて同棲したことを知った兄たちは、激しく憤ります。
 しかし、父ヤコブは沈黙を守っていました。ハモルとシケムの丁重な結婚の申し入れを表面的には受け入れて、条件に出した割礼の傷の痛みに苦しんでいる間に彼らを襲って皆殺しにし、略奪をします。
 このことに対してもヤコブは叱りませんでした。本当の主犯はヤコブとも言えるようですが……。