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悲しい女、サウルの側女、リツパ

(サムエル記下3611

                                             石川和夫牧師
  
 

 「サウルの側女、アヤの子リツパのこの行ないは王に報告された」(サムエル記下21・11)。
 リツパ(「熱い炭」または「焼けた石」の意)は、旧約の物語のうち、最も哀愁をさそう場面(聖書事典、キリスト新聞社)を演じさせられた悲劇の女性です。彼女は、イスラエル初代の王、サウルの側女として、アルモニ、メフィポシェトの二児を産みました(サムエル記下3・7、21・8)。サウル王がペリシテ人との戦いで、息子ヨナタンたちと共にギルボア山上で戦死を遂げた後、彼女は、実権を握ったアブネル将軍と通じます。このことで、サウルの後継者と目されていたイシュ・ポシェトは、王位を狙う行為として、アブネルを非難します(サムエル記下3・7〜11)。しかし、アブネルに、王権をダビデに移すのだ、と逆に脅されてしまいます。
 ダビデが王位について、着々と安定化を進めているさなかに、三年の飢饉が襲いました。ダビデは、何か不都合があるのかと主に託宣を求めたところ、「ギブオン人を殺害し、血を流したサウルとその家に責任がある」(21・1)と示され、ギブオン人との交渉の結果、サウルの子孫七人を彼らに引き渡すことに合意します。こうして、リツパの産んだアルモニとメフィポシェトと他の五人がギブオン人によって一度に処刑され、その死体が山の上でさらされてしまいました。
 「アヤの娘リツパは粗布を取って岩の上に広げた。収穫の初めのころから、死者たちに雨が天から降り注ぐころまで、リツパは昼は空の鳥が死者の上にとまることを、夜は野の獣が襲うことを防いだ」(21・10)。
 収穫(春)の初めから雨季(秋)まで約半年の間、息子たちの遺体を守りつづけたリツパは、どんな思いだったのでしょうか?旧約は、人間の悲惨さを決して隠しません。ダビデの王権維持のためとは言え、このような残酷なことが平気で行われていたのです。ダビデは、彼女の弔いの報告を受けて、サウルとその一族を丁重に埋葬します。そうして、聖書は、こう結んでいます。
 「この後、神はこの国の祈りに答えられた。」(21・14)。戦争責任の問題は、この時代だけのものだったのでしょうか?