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バウティスタ・マイノ(スペイン)       羊飼いたちの礼拝、1612年

.. 小さなかいばおけの前で

小さな坊やは、木彫りの上手なおじいちゃんのことが、とても自慢でした。なんでもない木切れから、“生きている”人形がだんだんできてくるのを見るのは、本当にすてきです。

  おじいちゃんがクリスマスの人形を作っているあいだに、坊やは木彫り人形の世界に入り込んでしまいました。そして、羊飼いや学者たちといっしょに動物たちのいる小屋を訪ね、かいばおけの中の赤ちゃんの前に立ちました。

  そこで坊やは気がついたのです。

 「赤ちゃんの手はからっぽだ!みんな何か持っているのに、赤ちゃんだけ何も持っていない。」

 びっくりして坊やは言いました。

「ぼく、君に一番いいものをあげるよ。新しい自転車にしようか。――そうだ、電気で動く鉄道セットにしよう。」

 その赤ちゃんは、にっこり笑って言いました。

 「ぼく、鉄道セットはいらないよ。それより、君のこのあいだのテストをちょうだい。」

 「ぼくのテストだって?」

 坊やはおどろきました。

 

 「だって、あんなの――”やりなおし?って書いてあるんだよ。」

「だから、ほしんだよ。」と、かいばおけに寝ている赤ちゃんのイエスさまは言いました。「ぼくは、君の”やりなおし?が全部ほしいんだ。そのために生まれてきたんだから。」

 「それから、もっとほしいものがあるんだけどなあ。」と、赤ちゃんは言いました。「君のミルクのコップなんだ。」

 坊やは悲しくなりました。

 「ぼくのミルクのコップ?――だって、あれ、こわれちゃったよ。」

 「だから、ほしいんだよ。」ちっちゃなイエスさまは言いました。

 「こわれたものは、何でも持っておいで。ぼくがなおしてあげる。」

 「もうひとつ、ほしいものがあるんだけど。」

 赤ちゃんは、また坊やに言いました。

 「あのコップが割れたとき、君がお母さんに言った言葉がほしいんだよ。」

 坊やは泣き出して、しゃくりあげながら言いました。

 「あのとき、ぼく、うそついちゃった。ぼく、お母さんにわざとやったんじゃないって言ったけど、ほんとは怒ってコップをなげたら、割れちゃったんだ。」

 「その言葉がほしかったんだよ。」と赤ちゃんのイエスさまは言いました。

 「君が怒ったり、うそついたり、いばったり、こそこそしたりしたときには、ぼくのところにおいで。君をゆるして、そうじゃないようにしてあげるから。そのために、ぼくは生まれたんだよ。」

 そして、赤ちゃんは坊やに、にっこり笑いかけました。

 坊やはじっと見つめ、じっと耳をかたむけ、びっくりしていました。

(ヴァルター・バウデート)

(小塩トシ子・久世礼子編「天使がうたう夜に」、日本基督教団出版局、1999年11月25日、初版、78〜82頁)